鳳凰に命を刻む 江戸彫金の技と情熱
彫金・磨きの匠
Prologue
センチュリーの象徴として、
フロントグリルやバックドア、ホイール中央などを飾る鳳凰エンブレム。
その金型製作には、数百年前から続く、江戸の伝統技法が息づいている。
顕微鏡をのぞき0.01mmの世界で金属に光を刻む、彫金・磨きの匠。
機械加工全盛の今、なぜ彼の手仕事が求められるのか。
進化に挑み続ける熟練の技に込められた、静かなる矜持に迫る。
第一章 機械×手仕事で 唯一無二をつくる
機械加工全盛の時代に、匠の技が求められる所以。
それは微細な紋様を彫りこむ技術だけではない。
その答えはエンブレムの金型づくりで
随所に見られると匠はいう。
金型の製作は、機械による原型の削り出しから始まる。
しかし回転する刃物は、表面や角に微細な湾曲を残してしまう。
その揺らぎを排し、鋭角を削り出す“角出し”は、
鏨(たがね)と金槌を操る熟練の技術だけが頼りだ。
続く磨きの工程においても、手仕事は欠かせない。
一本の蛍光灯が歪みなく映りこむまで磨く。その域に達するには、長い修練を要するという。
機械が形をつくり、人が魂を吹きこむ。
それは、センチュリーが受け継ぐものづくりと、
匠の矜持が美しく重なる瞬間といっても過言ではない。
第二章 現代的な“美”への進化 エンブレム継承の想い
匠が3代目センチュリーのエンブレムを任された当時。
「国を背負うほどの覚悟で挑もう」と自らを奮い立たせたという。
国内外の賓客・リーダーたちを乗せる車。
それは、日本の象徴にも成り得るからだ。
そして先代のエンブレムを前に、ひとつの想いが芽生える。
不規則だったハート柄の鱗模様をボディラインに沿って並べ、
毛並みの美しさをより現代的に描けないか。
それは鳳凰の魂を継承しながら、現代の美へと進化させることだった。
理想に向けて、とりわけ重きを置いたのが“けがき”と呼ばれる下絵の作業である。
今、 “けがき”を行う職人は稀という。しかし「この工程が違いを生む」と匠は断言する。
10本以上の鏨(たがね)を新調し、使用した本数は約30本。
けがきは何度も書き直してから彫りを繰り返し、完成時には約1ヶ月半の月日が流れていた。
伝統とは、ただ形を守ることではない。
挑み続けるからこそ、輝かせ続けられるものがある。
その真理を、鏨(たがね)と金槌そして自身の技をもって証明してみせた。
第三章 同じものはつくらない 鳳凰に刻む新たな光
生まれ変わった鳳凰に称賛が集まるなか、
匠の心はすでに、次のエンブレムへと動き始めていた。
SUVタイプのセンチュリー。車体のデザインが変われば、鳳凰の描き方も変わる。
毛の太さ、模様の配置、なかでもこだわったのは“光”だという。
いかに精緻に刻まれた金型も、輝きはメッキの被膜で鈍くなる。
その難題への挑戦。それは、仕上がりを逆算しながら光を彫ることだった。
そのひとつが、鳳凰の体できらりと輝く鱗模様。鱗を大きく刻むことで、
光の反射面を広げ、メッキの影響を最小限に抑えこんでいる。
鳳凰の尾部では、 “彫る”のではなく “えぐる”運刀を採用。
曲面に光を溜める工夫で、美しいハイライトを描き出した。
最高は、進化させることができる。
「少しでも上を目指す執念がある限り、同じものには成り得ない」
そう語る言葉の奥では、もう次の挑戦が始まっているのかもしれない。
第四章 次の100年へ 思考の深さが日本を育む
「エンブレムの仕上がりでは、誰にも負けたくない」
匠は静かに、しかし力強く断言した。
唯一無二になること。それは他者を寄せつけない、自分との闘いを意味する。その自負を支えるのは、常に少しでも良くしていきたい気持ちだという。
どうすれば美しく光るのか。どうすれば品格が宿るのか。最後は考え抜いた人に、軍配が上がる。
それゆえに後進の育成でも、時間をかけて手と頭を使わせることへのこだわりは強い。
思い返せば長年、日本の技術はそうして受け継がれてきた。
One of Oneの“個”が集うことではじめて、One of Oneの“ものづくりと文化”は生まれる。
思考に磨かれた、一人ひとりの誇り。それこそが、次の100年を照らす確かな道標となるはずだ。